上関原発を考える

2011年3月27日(日)14時~
上関原発を考える学習会「海と原発」
講師:佐藤正典(鹿児島大学理学部教授)
主催:廿日市・自然を考える会
場所:廿日市市あいプラザ3階講座室

同学習会に参加して、それまでに考えていたことも含めて自分なりの覚えのためにまとめてみました。つまり、これは決して講義録そのものではありません。また、もし内容に誤りや理解不足の点があれば、それはすべてWeb作者の責任です。

このページの目次です

巨大地震発生と福島原発事故

東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)

2011年(平成23)3月11日(金)午後2時46分ごろ、東北地方の三陸沖を震源とする巨大地震(東北地方太平洋沖地震)が発生し、人的物的に甚大な被害をもたらしています。

この度の東日本大震災は、地震の規模を表すマグニチュード 9.0、日本の地震観測史上最大規模のものと考えられます。東北地方を中心に関東地方などで、非常に大きな揺れを観測しました。そして、高さ10mを越える大津波が、三陸沿岸部の広範囲に渡って押し寄せ、各地で壊滅的な被害をもたらしました。

警視庁がまとめた巨大地震による被害(YOMIURI ONLINE、読売新聞より)は、死者11,578人、行方不明16,451人(合計約2万8千人)、避難者170,433人となっています(2011年4月1日午前10時現在)。

この地震で犠牲となられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。そして、被害にあわれた皆様にお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復興を祈念いたします。

西日本からエール!One for all, all for one.

福島原発事故

追加訂正(2011/07/10)

下記の文章は、主に2011年4月3日時点の情報をもとに書いています。しかしながら、福島原発事故の程度とその影響は、それまで知らされていたよりもはるかに深刻なものであることが、日々明らかになってきています。

原子力事故・故障の評価の尺度である国際原子力事象評価尺度 (INES)では、過去最悪の原子力事故は、チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年、ソビエト連邦(現:ウクライナ))であり、そのレベルを「最悪のレベル7(深刻な事故)」としています。

しかしながら、福島原発の事故を受けて、国際原子力機関 (IAEA) では、レベル8の新設も検討されているようです。

日本における原発の「安全神話」は、だれが何のためにどのようにして作り上げてきたものなのでしょうか。今こそ、一人ひとりが原発とどう向き合うのか真剣に考え、そして自ら行動すべき時がきています。唯一の被爆国であり地震大国である日本の一市民として。

福島原発事故の伝えられ方(4月3日現在)

東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)によって、稼働中の福島第一原子力発電所(東京電力)の原子炉4基がすべて被災しました。

緊急時措置の第一弾として、原子炉を「止める」ために制御棒の挿入が自動的に行なわれました。それには成功したものの、第二弾目である原子炉を「冷やす」という作業は難航しています。最大の要因としては、地震と津波によって電気系統がすべて故障し、被災直後から冷却水を送ることができなくなったことがあげられます。

「冷やす」作業に手間取っている間に、放射能が建物外に漏れていることが分かってきました。福島原発周辺の土地や海水中から、国の基準値を大幅に上回る放射線量が記録されています。

さらに、建物内部には異常に放射線量が高い区域があり、復旧工事の妨げになっています。放射性物質をきちんと「閉じ込める」(第三弾)ことができていない(破損箇所がある)ようです。

現場では、自衛隊や警察・消防そして東電関係者など、多くの方々が日々決死の覚悟で作業をしています。フランスや米国といった外国の支援も検討されています。しかしながら、事故の今後の推移は予断を許さないようです。福島第1原発周辺で実施されている避難指示(半径20キロ圏内)および屋内退避指示(半径20~30㎞圏内)が解除される見通しは全くたっていません。(4月1日現在)

福島原発では、千年に一度の大地震でもなんとか「止める」ことはできた、と言えるのかもしれません。ただし、プルトニウムが検出されるなど、炉心が破損している可能性も完全には否定できなくなってきたようです。そして、次の段階である「冷やす」「閉じ込める」ことはできませんでした。

一度発生した原子炉事故を収束させることが、いかに困難なものであるか、残念ながら福島原発の現状が証明しています。地震大国・被爆国日本における原発のあり方について、危機管理体制の一元化はもちろんのこと、代替エネルギーや省エネ装置の開発も含めて、今こそ真摯な議論が求められています。

原子力発電を考える

原子力発電の位置付け

「でんきの情報広場」(電気事業連合会ホームページ)によると、「2010年3月末現在、日本では54基(合計出力4884.7万kW)の商業用原子力発電所が運転されています」。日本の総電力の3割以上が原子力発電によってまかなわれていると考えてよいでしょう。

それでは、総電力量を3割減らすことができれば、原発はいらなくなるのでしょうか。そして、そもそも総電力量の3割減は可能なのでしょうか。

今回の福島原発の事故を受けて、東京電力では計画節電をすることになりました。各企業がそれに対抗して節電をしたところ、短期的に20~30%単位の節電効果が得られた企業もあったようです。産業用電力に加えて各家庭における省電力を実施することによって、原子力発電に頼らない電力供給は可能なのかも知れません。

原子力発電からの完全撤退も視野に入れた代替エネルギーの研究(太陽光、風力や地熱など)、そして省エネの研究が急務となっています。電力事情の過去、現在そして未来の見通しについて、各種の学術的な研究成果が一般市民にも分かる形で公開されることが望まれます。

小出裕章先生(京都大学原子炉実験所・助教)の主張は、傾聴に値します。

  • 原発Nチャンネル14 原発なしでも電力足りてる(YouTube)
    http://www.youtube.com/watch?v=PLJVLul6Wz0
  • 小出裕章著書「隠される原子力・核の真実」出版記念講演
    (アクティブやない・山口県柳井市)
    http://stop-kaminoseki.net/koide20110320poster.pdf

原子力発電とは、お湯を沸かすこと

原子力発電では、核燃料を燃やしてその熱で水を水蒸気に変えます。そして、その水蒸気でタービン(回転羽根)を回して発電する仕組みになっています。水蒸気でタービンを回すという原理そのものは、火力発電と何ら変わるところはありません。

原子力発電の燃料は、放射性物質

「原子力発電は、CO2(二酸化炭素)を出さないので、環境にやさしいエネルギーだ」とするメッセージが執拗に流されています。温暖化の原因物質とされるCO2を排出する火力発電よりも、それを排出しない原子力発電の方がクリーンだというのです。キャンペーンには多くの有名人が登場しています。

しかし、原子力発電の最大の欠点は、原料として放射性物質を使用すること、そのものにあります。原子力発電によって産生される放射性廃棄物の処理は容易ではありません。原子力発電はほんとうにクリーンで安価なのでしょうか、様々な角度から検討し直す必要があるように思えてなりません。

原発では、日常の正常運転中でも、微量の放射性物質が大気中に排出されています。ところが、原発内での小さなトラブルは頻繁に起きているようです。もちろん、一度重大事故が起これば、その影響はとてつもない規模になります。

旧ソ連でのチェルノブイリ原発事故(1986年)では、炉心溶融(メルトダウン)が起きて、大量の放射性物質が大気中に放出されました。その処理に膨大な労力を要したため、旧ソ連崩壊の一因になったとも言われています。

原子力発電の熱効率は火力に比べて低い

原子力発電では、生成した熱の約1/3だけが電気エネルギーに変換され、残りの2/3のエネルギーは、廃熱として捨てられています(熱効率は約35%程度)。これに対して、最新の火力発電では、熱効率は約50%とされています。

つまり、原子力発電では、発電量の約2倍のエネルギーを何ら有効利用することなく捨てているのに対して、火力発電では、廃熱として捨てられるのは、発電量とほぼ同等ということになります。

原発は巨大な海の温め装置

原子炉および周辺装置を適切な温度に保つためには、大量の冷却水が欠かせません。そうしたことから、原子力発電所は、必ず海や河川あるいは湖のそばに建設されます。ちなみに日本では、全ての原子力発電所は海岸部にあり、しかもそのほとんどは、人口密度が低い地域に建てられています。

取水口から取り入れられた冷却水は、廃熱を受け取って温められます。そうした温廃水は、原発が稼働し続ける限り、毎日大量に海に放出されます。

地球温暖化の影響を考えるとき、原発から放出される廃熱の影響と、火力発電によるCO2(二酸化炭素)放出とでは、どちらがどの程度大きいのでしょうか。今一度検証されるべきです。

上関原発を考える

上関(鳩子の海)に原発建設計画浮上

山口県上関(かみのせき)町は、NHK連続テレビ小説(第14作)「鳩子の海」(1974年4月~1975年4月放映)の舞台となった町です。ドラマの内容について、Wikipedia(鳩子の海)は、「広島への原爆投下など、戦争のショックで記憶を失い、瀬戸内の港町(山口県熊毛郡上関町)で育てられた少女の放浪の軌跡を描いた」としています。

上関は、古くから瀬戸内海の海上交通の要衝として栄えてきた町です。そこに中国電力の原発(2基)建設計画が浮上したのは、1982年6月(昭和57)のことです。

中国電力では、これまでの約30年間にわたる反対派住民らの抗議活動にもかかわらず、1号機(2012年6月着工、2018年3月運転開始)、2号機(2017年度着工、2022年度運転開始)の計画実現に向けて周辺工事を進めています。

生物学研究者の3学会、要望書提出

こうした中で、生物学研究者の組織である3つの学会(日本生態学会、日本ベントス学会、日本鳥学会)の環境保全関係委員会は、広島国際会議場(広島市)において「瀬戸内海の生物多様性保全のための三学会合同シンポジウム」2010年1月10日(日)を開催しました。

上関原発建設計画に対しては、3学会合同でそれまでに合計10件の要望書を提出しており、このシンポジウムは、それらをまとめて一般に広く呼び掛けるために開かれました。

さらに、同シンポジウム後(2010年2月15日付け)、3学会合同の要望書(中国電力及び日本政府あて)が提出されています。そこでは、「上関原子力発電所建設工事の一時中断と生物多様性保全のための適正な調査」が求められています。

・上関原子力発電所建設計画に係わる海域埋め立て工事を一時中断すること。
・3学会から提出された要望書の内容に沿った適正な調査を実施すること。

その理由の第一として、同要望書では、「瀬戸内海西部の周防灘、とりわけ上関周辺海域は、瀬戸内海の本来の自然環境と豊かな生物相が今なお良く残っているという点において、たいへん貴重な場所である」としています。

代表的な希少種・絶滅危惧種としては、ヤシマイシン近似種などの巻貝類、カサシャミセン(腕足動物)、ナメクジウオ(原索動物)、ミミズハゼ類(魚類)、スナメリ(水棲哺乳類)、カンムリウミスズメ(鳥類)などがあげられています。

上関原発で周辺の海が温められる

上関原発では、改良型沸騰水型軽水炉2基を稼働させる計画になっています。したがって、廃熱を処理するため大量の冷却水を必要とします。ここで、冷却水の取水口と放水口の温度差は、7度Cと定められています。

7度Cの温度差を維持するために必要な海水の量は、2基合計で毎秒190トンにもなります。一か月間の取水量に直すと「10km×10kmの海域の水深5mまでの海水量に匹敵する」(佐藤正典、広島保険医新聞2010/04/10号)ことになります。非常に広範囲の海域で、温排水によって海水温が上昇することは避けられないでしょう。

また、冷却水として取り込まれた海水は、炉心近くの復水器を通過するとき、水温40度C以上にもなります。冷却水とともに取り込まれた「卵・稚仔及び動植物プランクトン」が、高温の廃熱で瞬間的に温められて死滅する可能性があります。

その他、フジツボなどがパイプラインに付着するのを防ぐために混入される次亜塩素酸ソーダの影響も心配です。

上関周辺の海は遠浅になっています。太陽光がよく届くことによって豊かな生態系が形成されています。瀬戸内海各地の浅瀬が埋め立てられた中で、瀬戸内海本来の生態系を保持しており、奇跡の海とも言われています。原発建設によってどのような影響があるのか、きちんとした環境アセスメントが欠かせません。

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年4月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)