インフルエンザで3日間寝込んだことがある

平成12年2月上旬(2000年)、私は病気に倒れた。金曜日の夕方、急に喉がいがらっぽくなって咳を繰り返すようになる。早めに帰宅して軽く食事を取った後寝込んで、月曜日の朝まで全く起きあがることができなかった。月曜日も朝出勤の準備をしてネクタイまで付けたが、眩暈がして再び寝込んだ。ふらふらしながらも何とか会社に出たのは火曜日からである。

私と相前後して何人かの社員が会社を休んだ。そうした時期と症状からして、私を襲ったのがインフルエンザであることはほぼ間違いないであろう。生涯最大のダメージであった。

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インフルエンザのことを昔は流行性感冒といっていた

インフルエンザは、日本では「流行性感冒-流感」と呼ばれていた時期があることからも分かるように、風邪すなわち「感冒」の一種として捉えられることも多く、深刻な病気と受け取っている人は少ない。

しかし、インフルエンザの流行は、過去何度か世界的規模で繰り返されてきており、その度に多くの生命が奪われている。これに対して、普通の風邪で死亡率が高まるほどの流行をみることはない。

インフルエンザは、ただの風邪ではない

風邪(かぜ症候群)とは、ライノウイルスやコロナウイルス、RSウイルスなど種々のウイルス感染によって起こる上気道炎(鼻や喉の炎症)の総称であり、全身症状が出ることはあまりない。

インフルエンザは、インフルエンザウイルスという特定の微生物(ウイルス)によって起こる呼吸器疾患である。症状が軽いうちは「かぜ症候群」と区別しにくいが、インフルエンザでは、39度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く現われ、気管支炎、肺炎などを併発して重症化することも多く、65歳以上の高齢者の死亡率を高める。

インフルエンザウイルスにも種類がある

インフルエンザウイルスは、RNA型のウイルスで、内部蛋白質(核蛋白質-NP、マトリックス蛋白質-M1)の抗原性の違いにより、A型・B型・C型に分けられる。

A型やB型のインフルエンザウイルスの表面からは、HA蛋白(ヘマグルチニン、赤血球凝集素)、NA蛋白(ノイラミニダーゼ、レセプター破壊酵素)という2種類の蛋白質がウニの棘のように突きでている。さらに、A型では3つめの表面蛋白質、M2蛋白質が存在する。

A型の表面蛋白質には複数の抗原型がある。ヘマグルチニン(HA)で5種類、ノイラミニダーゼ(NA)で9種類の抗原型が発見されており、A型はその組み合わせによって細分化される。B型ではHA、NAともに1種類のみで組み合わせによる細分類は行われない。

C型の表面蛋白質は、ヘマグルチニンエステラーゼ(HE)1種類のみであり、抗原型の違いも存在しない。

A型、B型およびC型の感染力

A型はヒトを含む哺乳動物および鳥類に感染する。B型とC型に感染するのはヒトのみである。A型に感染した場合の症状が最も重く、しばしば世界的な規模で大流行を引き起こす。B型もA型同様流行を起こすが、C型は起こさないとされている。

原則として、ヒト型のウイルスはヒトに、トリ型のウイルスはトリに感染するが、ブタはトリ型、ヒト型、ブタ型に感染し、異なる遺伝子が混ざり合って生じるとされるウイルスの大変異に大きな役割を果たしていると考えられている。

20世紀の大流行(パンデミック)-いずれもA型

1918年、スペインかぜ(H1N1亜型)
全世界で4000万人死亡(日本38万人)
全世界人口の約50%感染、約25%発症したとされている
健康な青年層での死亡率が高い点に特徴がある
1957年、アジアかぜ(H2N2)
1968年、香港かぜ(H3N2)
1977年、ソ連かぜ(H1N1/USSR)
現在:A型(H1N1、H3N2)およびB型の3種類

ワクチン

インフルエンザウイルスに免疫があるかどうかは、HA・NA蛋白に抗体を持つかどうかにかかっている。したがって、インフルエンザ予防のためにインフルエンザワクチンを投与することは非常に有効な手段となる。

そのためには、投与するワクチンが、流行予想の型(HN型)と合っていること、さらにはHN型が一致するだけでなく、その中の細かい変異まで一致する株を使用することが求められる。

ちなみに、今年(2000年)のワクチンは、A香港型(H3N2)のシドニー株、Aソ連型(H1N1)の北京株、B型の山東株を混合したものである。

平成13年度(2001/02シーズン) インフルエンザHAワクチン製造株
A/New Caledonia/20/99(H1N1)「Aソ連型」
A/Panama/2007/99(H3N2)「A香港型」
B/Johannesburg/5/99 「B型」

サーベイランス

現在どの型のインフルエンザが存在しているのか、これからどの型のインフルエンザが流行しそうか、世界的規模で日々監視が続けられている。インフルエンザウイルスの変異(進化)のスピードは非常に早いとされている。HN型の組換えが起こるような大変化をもしっかり監視して大流行を未然に防ぐ為にも、サーベイランスが非常に大切である。

新型インフルエンザ(H5N1)集団発生(1997年)

香港にて、新型(H5N1)による集団発生(感染18名、死亡6名)
従来から人間が感染するのは H1~3、N1、2とされてきた
それ以外のH5型による初めての感染であり、今後も注意が必要と考えられる

抗ウイルス薬

平成10年11月、我が国では、塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)が、A型インフルエンザ用の抗ウイルス剤として薬価収載された。(A型のみにしか効果がないことは重要-M2チャネル阻害薬)

平成13年2月(2001年)、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)-カプセル、ザナミビル水和物(商品名:リレンザ)-吸入式が、A型又はB型インフルエンザウイルス感染症治療薬として薬価収載された(ノイラミニダーゼ阻害薬)。

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年4月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)