このページの目次です
平仮名書きで、読みやすく論理的な文章を書こう
木山泰嗣著『弁護士が書いた究極の文章術』法学書院(2009年)を改めて読み返してみました。縦書き書籍で、ほとんどの場合に1文1行で完結させ、行頭をそろえて並べた形式の文章になっています。弁護士さんの書いた文章らしく論理的で読みやすい書籍です。
副題には「誤解なく読み手に伝える書き方のヒント28」とあり、その第12項(pp.81-88)のタイトルは「ひらがなと漢字のバランスを意識する」となっています。
そこでは「読み手の立場を尊重した文章というのはひらがなが多い」として、渡部昇一『知的生活の方法』(1967年)、加藤周一『読書術』(1962年)そして岩渕悦太郎編著『悪文』(1960年)からそれぞれ例文を引用しています。
私の手元に今もある梅棹忠夫『知的生産の技術』(1969年)も平仮名の多い文章です。例えば、「まえがき」冒頭は「この本ができあがるまでのいきさつを、かんたんにしるしておきたい」となっています。漢字はたったの一文字だけです。いわゆる〈漢字を開いて〉平仮名書きにしています。木山著のコラム「漢字が多いと黒っぽい?」p.87からすると黒っぽくない文章です。
2016年2月現在から遡ること数十年前の著名な書き手がそろって「平仮名」を多用しているのは象徴的です。そしていずれもロングセラー(もはや古典)になっています。論理的で読みやすいのがその原因でしょう。
公用文のルールに従って読みやすい文章を書こう
木山弁護士によれば、「昔の判決文は漢字が多いですが、いまの判決文は実はひらがなだらけ」だそうです。その理由として「公用文のルールに従うと、ひらがなが多くなるから」としています。公用文の用字用語を勉強することは、論理的で分かりやすい文章を書くのに役立ちそうです。
私は、廣瀬菊雄『公用文表記の基礎知識』(初版1992年)の第5刷(2007年)を持っています。
その中では、「更に」(副詞)と「さらに」(接続詞)の使い分け(p.173)や、「時」(実質名刺)と「とき」(形式名詞)の使い分け(pp.232-233)など、様々なケースについて具体的に詳しく学ぶことができます。(木山さんは、同じ著者の『公用文用字用語の要点』を使っているようです)
廣瀬さんは、『公用文表記の基礎知識』の「はしがき」冒頭で、「行政機関が作成する公用文は、厳格に「公用文における漢字使用等について」等によらなければならない。この点、「常用漢字表」を漢字使用の目安とし、送り仮名にも「許容」を用いるなど、柔軟な姿勢で臨んでいる新聞・放送とはその立場を異にするものである」と宣言しています。
例えば、手持ちの共同通信社『記者ハンドブック』(第12版2010年、第7刷2015年)で確認してみましょう。副詞(p.117)の項をみると、「訓読みのものは平仮名書きを原則とする・・・」となっています。つまり、公用文における「更に」(副詞)と「さらに」(接続詞)の使い分けは、新聞記事の中では存在しないことになります。
「すべて」から「全て」へ
ところで、平成22年11月30日(2010年)、「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令第1号)及び「常用漢字表」(平成22年内閣告示第2号)が定められました。
この常用漢字表の中で「全」に新たな音訓が加わったため、「全て」という表記が可能となりました。ところが、私はしばらく前までその事を知りませんでした。全ての場合に、「すべて」と書いていた(平仮名書き)のです。私の廣瀬菊雄『公用文表記の基礎知識』は、初版1992年(第5刷2007年)だったからです。(2012年6月改訂版あり)
常用漢字表が改訂されていたことには、『最新公用文用字用語例集 ― 改定常用漢字対応』(2010年)を購入(2015/12/16)してから初めて気付きました。『記者ハンドブック 第12版 新聞用字用語集』(2010年)を先に購入(2015/09/14)していたのですが、その時は気付かなかったようです。実は『記者ハンドブック』(2010年)も改定常用漢字対応だったのです。
また最近、2014年2月21日(平成26)には「異字同訓の漢字の使い分け例」(文化審議会国語分科会報告)が発表されています。『これだけは知っておきたい 公用文の書き方・用字用語例集(第2版)』(2016年3月発売予定)では、約7500語を収録した「用字用語例集」に反映させているとのことであり、役に立つかも知れません。
電子書籍では何でも自由に書いてよい、がしかし表記は統一させよう
電子書籍の形で自費出版をする場合、商業出版の場合と違って、著者は自分の思いを何でも自由に書くことができます。これはほんとうに素晴らしいことです。しかしその一方で、独りよがりの内容になってしまうことは避けなければいけません。誤字・脱字は論外です。
その上で、同一書籍内においては表記を統一することが求められます。つまり「文体、漢字の使い方、送り仮名、数字の使い方、外来語の表記などを統一する」ことが大切です。『編集者・ライターのための必修基礎知識』雷鳥社(2015年)
論理的で分かりやすい文章を書くために、「公用文表記の基礎知識」は欠かせません。
公開日時: 2016年2月28日 @ 18:23:00